わたしの仕事場は会社内の4階にある。景色がいいというわけではないが、地上から遠すぎないのは意外と便利かもしれない。なぜなら外の通りを眺めた時に、傘をさしている人がいるかいないかで天気が一目でわかるからだ。もっともそんなとこを見なくとも、普通は天気など一目でわかるものだが。

 さてその程よい高さの4階であるが、ちょっと悩むときがある。それはエレベーターの前に立ったときである。自分の中の目安として2登り3下がりまでは階段、となんとなく意識しているのだ。この4階の場合、登るときはそれなりに階数があるのでエレベーターを使い、降りるときは健康のためにと階段を使う、ということになる。
 そんな心がけをしてる自分が登りのエレベーターを利用しようと思ったときのことである。エレベーターを待つ男性が私以外に4人。全員知らない顔である。そのときはそれほどそのことが気にならなかった。しかしエレベーターに乗り込み、行き先のボタンを押す段階で全員がみな違う階を押した。恐らくこの中に知り合い同士の人はいないであろうというのが、誰一人口を開くことがないことからもわかる。そこでふと考える。この狭いエレベーターという空間に5人の他人が入り、まるで肩を寄せるかのような距離で無言の時間を過ごしている。こんな状況は他に余りないのではないだろうか?
 満員の通勤電車なら似たような状況はよくあるだろう。しかし通勤電車は確実に他人との干渉がある。狭い空間で相手に恐縮したり、時には声をかけてつめてもらったりするだろう。もし干渉がないくらいすいているとしたら、同じ空間にいるという感覚にはなりにくいような気がする。まったく独立した5人の男性が、同じ空間で別々の思考をめぐらせる状況というのは、やはりエレベーターの中特有の環境のような気がする。

 そんなことを考えているうちにあっという間に4階に到着してしまった。もう少しこの状況について考えたかったが、そそくさとわたし1人が4階で降りる。残りの4人はまたそれぞれの階に到着するまで、別々の思考をめぐらせるのだろう。なんとも面白い空間だ。エレベーターを降りた後も、しばらくその不思議な空間に思いを馳せた。

 何かの折りに読んだ話である。プロの警備員、それもベッカムの家族を警備するようなプロ中のプロの話だ。
「よく女性のための護身術のひとつとして
『エレベーターで不審な男性に絡まれたとき等の護身術を教えて欲しい。』
と頼まれるが、それは実に無意味な話である。なぜなら本当の護身術とは最初から不審な男性と2人きりでエレベーターに乗らないことだからである。」
この話は非常に面白いし真理だと思う。やはり男5人がエレベーターに乗り込むのとはわけが違うのだろう。しかしわたしは男5人のエレベーターに乗るより、健康に気遣って階段を登るべきだったのかもしれないと、少しだけ思った。

コメント

nophoto
2007年7月6日23:35

男5人でアッー!まで読んだ( ̄ー ̄)ニヤリ

遠留吹雪
遠留吹雪
2007年7月10日12:46

ななな、なんと恐ろしい!